個人事業から法人化したばかりの時期や、オーナー企業において、社長個人と会社のお金の境界線が曖昧になることは珍しくありません。

急な支払いを社長の財布から補填したり、社長個人の支払いを会社のカードで済ませたりする行為は日常的に発生します。

これらのやり取りを会計処理する際に登場するのが「役員借入金」「役員貸付金」です。

一見便利な勘定科目ですが、実態や税務上のリスクを正しく理解していないと後に大きなトラブルを招きます。

この記事では、役員借入金や役員貸付金が発生した際の仕訳方法から、運用上の注意点、税務リスクについて解説します。

役員借入金/貸付金の基本仕訳

会社と社長の間でお金が動いた際、どちらが貸し手かによって使用する勘定科目が決まります。

それぞれのケースについて解説します。

役員借入金(会社が社長から借りる場合)

会社の資金が不足し、社長個人の現金を会社に入金した場合は「役員借入金」という負債科目を使用します。

仕訳自体は単純ですが、なぜ入金が発生したのかを証明する領収書などをセットで保管しておく必要があります。

日付や金額が一致しないと、税務調査で経費として認められないリスクがあるため、迅速な記帳が求められます。

役員貸付金(会社が社長に貸す場合)

会社のお金を社長個人の支払いに充てた場合は「役員貸付金」という資産科目になります。

役員貸付金は会社にとって将来返してもらう権利であり、貸借対照表の資産の部に計上されます。

しかし、この資産は銀行融資や税務の面では非常にネガティブな評価を受ける項目です。

基本的には発生させない運用を心がけ、発生した際も早期に精算を行うことが鉄則です。

よくあるミス(相殺・放置)

役員借入金と役員貸付金は日常的に発生するため、実務処理において誤った取り扱いがなされるケースが多く見られます。

よくある2つのミスについてご紹介します。

①借入金と貸付金を勝手に相殺してしまう

社長が会社にお金を貸している一方で、会社からお金を借りている両建ての状態になることがあります。

会計には「総額主義」という原則があり、資産と負債は発生した金額をそのまま記載しなければなりません。

面倒だからと相殺してしまうとお金の流れがブラックボックス化し、税務調査での不信感を煽ります。

必ず入金と出金を個別の仕訳として起こし、通帳の動きと一致させる習慣をつけることが重要です。

②多額の残高をそのまま放置する

以下のように、決算書に数百万円単位の役員借入金や貸付金が何年も残っている状態は健全な経営とは言えません。

  • 過去の立替金の累積を精算せずに放置し続けている
  • 社長の個人的な支出を役員貸付金としたまま返済していない
  • 使途不明金をすべて役員貸付金として処理している

特に役員貸付金が膨らんでいる場合、実態は社長による会社資金の私的流用とみなされる可能性が高まります。

放置された残高は会社の財政状態を歪め、深刻な税務リスクや融資への悪影響を引き起こします。

決算ごとに残高の根拠を確認し、可能な限りゼロに近づけるための精算ルールを構築することが求められます。

税務上のリスク

役員との金銭のやり取りは、税務当局から利益操作や賞与の隠蔽を疑われやすい項目です。

具体的な2つのリスクについて解説します。

①役員貸付金に対する「認定利息」

会社が社長にお金を貸している場合、原則として適正な利息を受け取らなければなりません。

実際にはお金が動いていなくても、書類上で税金だけが増えていくという非常に損な状態に陥ります。

これを回避するためには貸付金を発生させないことが一番ですが、やむを得ない場合は契約書を作成し、実際に利息を支払う必要があります。

②銀行融資における評価の低下

税務上の問題以上に実務で深刻なのが金融機関からの信用失墜です。

  • 融資したお金が事業ではなく社長の個人的な遊興費に使われると判断される
  • 貸付金残高は実質的に価値のない資産として自己資本から差し引かれる
  • 資金管理がずさんな会社であるとみなされ、融資拒否に繋がる

上記のような状態は銀行から見れば、会社と個人のお金が混ざっている会社は公私の区別がつかないという評価になります。

どれだけ本業の売上が伸びていても、役員貸付金が一つあるだけで審査の土俵に乗れないケースも少なくありません。

正しく整理するための考え方

役員借入金・貸付金にまつわるトラブルを防ぐためには、日々の運用ルールをシンプルに整えることが最も効果的です。

法人カードと専用口座の徹底活用

社長個人の財布から経費を支払う立替払いを極限まで減らす工夫をしましょう。

入り口と出口を法人名義の決済手段に集約するだけで、仕訳の際に役員借入金が登場する回数は激減します。

クレジットカードの明細がそのまま経費の証明となるため、領収書を手入力する手間も省けます。

これにより、帳簿の正確性が増すだけでなく、経理業務の効率化という大きなメリットも得られます。

定期的な精算と役員報酬の適正化

どうしても発生してしまう一時的な立替金や貸付については、以下のように放置せずに毎月精算する仕組みを作ります。

  • 月に一度経費精算日を設け、社長の立替分を会社から振り込む
  • 使途不明金が発生した際は、翌月の役員報酬で調整するなど早期に処理する
  • 生活費が不足している場合は貸付ではなく役員報酬額を適正に見直す

役員貸付金が発生する最大の原因は、設定している役員報酬が実際の生活費に足りていないことにあります。

足りない分を会社から引き出すのではなく、生活に必要な額を給与として正当に受け取るべきです。

役員報酬の設定から資金繰りまでを数値計画に基づき管理することで、銀行からも信頼される決算書を維持できます。

投稿者プロフィール

監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
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