「これは経費にしていいのでしょうか」という質問は、税理士のもとに最もよく寄せられるご相談の一つです。

スーツ代、家族との食事代、自宅兼事務所の家賃、書籍代など、判断に迷う支出は事業を営んでいれば毎月のように出てきます。

しかし、経費になるかどうかは「品目」では決まりません。

同じスーツでも経費になるケースとならないケースがありますし、同じ書籍でも経費として認められる場合と認められない場合があります。

判断を分けているのは、その支出が「事業のために使われたか」「金額が妥当か」「それを証明できるか」という3つの軸です。

本記事では、国税庁の公表資料や判例も参考に、ご自身で判断できるようになるための考え方を整理いたします。

経費の本質は「事業のための支出」かどうか

経費とは、所得税法第37条および法人税法上「事業に関連する支出」を指します。

国税庁タックスアンサーNo.2210「やさしい必要経費の知識」では、必要経費に算入できる金額として「総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額」と「その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額」が挙げられています。
(参考:国税庁タックスアンサーNo.2210「やさしい必要経費の知識」

つまり、売上を生むために必要な支出、または事業を維持するために必要な支出であれば経費に該当します。

逆に、私的な支出(家事費)はどれだけ金額が小さくても経費にはなりません。

ここで重要なのは、税務署が見ているのは「使った人」ではなく「使われた目的」だという点です。

社長個人が支払ったものでも事業のためであれば経費になりますし、会社の口座から出ていても私的な支出であれば経費にはなりません。

判断軸その1 事業との関連性があるか

最初のチェックポイントは、事業との関連性です。

お客様との打合せの飲食代、業界視察のための交通費、業務に必要な書籍代などは、事業との関連性が明確で経費として認められやすい支出です。

判断に迷うのは、関連性が「濃い・薄い」のグレーゾーンの部分です。

たとえば、同業の知人とのランチは情報交換が目的なら経費になりますが、単なる旧交を温めるだけですと私的な交際になります。

「誰と」「何の目的で」「どんな話をしたか」が説明できるかどうかが重要です。

事業と家事の両方に関連する支出(家事関連費)については、国税庁の所得税基本通達45-2において「業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定する」とされており、50%以下であっても必要な部分を明らかに区分できれば経費として認められる余地があります。
(参考:国税庁「所得税基本通達 第45条関係(家事関連費)」

判断軸その2 金額が妥当か

事業に関連していても、金額が事業規模に対して過大であれば、税務調査で否認されるリスクが高まります。

例えば、年商1,000万円の会社が一人で月50万円の交際費を計上していれば、合理性があるかどうか疑問です。

なお、法人の交際費については2024年4月1日以降、1人当たり10,000円以下の飲食費は交際費等から除外できる扱いに改正されています(改正前は5,000円以下)。

中小法人については年間800万円までの交際費または接待飲食費の50%相当額のいずれかを損金算入できる特例があります。
(参考:国税庁タックスアンサーNo.5265「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」

「同業他社・同規模の事業者と比べて常識的な水準か」という視点で見直すと、過大計上を防ぐことができます。

判断軸その3 証拠が残っているか

経費として認められる最後の関門が、証拠書類の保存です。

領収書だけでなく、誰と・何の目的で・どんな費用かをメモしておくことで、税務調査の際に説明できる状態を作っておくことが大切です。

特に交際費等の飲食費を「1人当たり10,000円以下」の少額飲食費として扱う場合は、飲食年月日・参加者氏名と関係・参加者の人数・金額および飲食店の名称所在地・その他飲食費であることを明らかにする事項を帳簿書類に記載しておく必要があるとされています。

(参考:国税庁タックスアンサーNo.5265「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」

これは交際費に限らず会議費・福利厚生費でも同様の考え方が適用されますので、メモ習慣を社内ルールとして定着させておくことが、後の自信ある経費計上につながります。

グレーゾーンの典型例:スーツ代の取り扱い

判断に迷う支出の代表例がスーツ代です。

スーツについては昭和49年5月30日の京都地裁判決において、「被服費は個人の趣味嗜好に左右され、一般的に個人的な家事消費(家事費)に該当する(法律事務所ASCOPE参考)」とされ、経費性が原則否定されています。

ただし、同判決では「その地位、職種に応じ、勤務上一定の種類、品質、数量以上の被服を必要とする場合には、家事関連費と解するのが相当である」「勤務上必要とした部分を明確に区分できるときは、必要経費に算入する余地がある」とも述べられています。

つまり、スーツ代を経費にするには、業務での着用が明らかに区分できる状態(事務所での保管・着替え、業務専用としての運用など)を整えることが必要となります。

このように、判例の論理を理解すれば、グレーゾーンであっても合理的な根拠を持って判断できるようになります。

迷ったときの3つの質問

判断に迷ったときは、次の3つを自問してみてください。

  • 事業のために使ったか
  • 金額は事業規模に対して妥当か
  • 誰かに説明できる証拠が手元にあるか

3つすべてが「YES」であれば経費として計上、1つでも「NO」があれば、計上を見送るか、計上方法を見直す必要があります。

まとめ

判断軸を持つことで、毎月の処理に自信が持てるようになります。

それでも判断に迷うグレーな取引は、決算前にまとめて顧問税理士へ確認しておくのが安心です。

税理士小林ノブヒロ事務所では、経費計上の判断についてのご相談も初回60分無料で承っております。

特に個人の方などで、日々の会計処理で気になる支出やご自身で調べても判断が難しい処理があれば、お気軽にご相談ください。

投稿者プロフィール

監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
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