中小企業オーナーの相続税負担に大きな影響を及ぼす制度改正の動きが、いよいよ本格化しています。

非上場株式の相続税評価ルール(財産評価基本通達)について、東京オリンピックが開催された1964年に作られたこのルールが、半世紀以上の時を経て、本格的に書き換えられようとしています。

新ルールは2027年度税制改正大綱への反映を経て、2028年1月以降の相続から適用される見通しです(出典:日本経済新聞2026年4月20日報道)。

本記事では、何が起きているのか、なぜ見直されるのか、そして経営者様が今やっておくべきことを整理いたします。

何が起きているのか

非上場株式の相続税評価は、現在「財産評価基本通達」というルールに基づいて行われています。

このルールは1964年(昭和39年)に制定されて以来、約60年にわたって基本的な枠組みが維持されてきました。

しかし、近年は評価額を意図的に引き下げる節税スキームが相次いだことが指摘されており、国税庁は2026年4月から本格的な見直しに着手しています。
参考:国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料

なぜ見直されるのか

国税庁が公表した第1回会議の資料では、会計検査院の指摘により、評価方式間で評価額に大きなかい離が生じていることが明らかになっています。

具体的には、類似業種比準方式と純資産価額方式の間で評価額に4倍程度の差が出るケースもあり、これを利用して恣意的に会社規模を変えることで評価額を圧縮するスキームが確認されています(出典:日本経済新聞2026年4月14日報道)。

これらは、相続税の課税の公平性を損なうとして問題視されてきました。

今回の見直しは、相続税率の引き上げや基礎控除の縮小を目的としたものではなく、あくまで「適正な課税のための評価方法の見直し」と位置づけられています。

ただし結果として、これまで低い評価額で承継できていた一部の中小企業では、相続税負担が増加する可能性があります。

現行の評価ルールの仕組み(おさらい)

非上場株式の評価は、現行ルールでは大きく分けて3つの方式があります。

  • 「類似業種比準方式」は、自社と同じ業種の上場企業の株価を物差しにして自社の株価を算出する方法です。業績が良い会社ほど、この方法だと評価額が抑えられやすい仕組みになっています。
  • 「純資産価額方式」は、会社の純資産(資産−負債)を発行株式数で割って評価する方法で、不動産や内部留保が多い会社で高くなる傾向があります。
  • 「配当還元方式」は、少数株主が株式を取得する場合に使われる簡易的な評価方法です。

会社規模(大会社・中会社・小会社)と株主の立場によって、これらの方式が組み合わされて使われています。

今回の見直しでは、特に方式間のかい離や会社規模区分による評価圧縮への対応が論点となる見込みです(出典:国税庁タックスアンサーNo.4638「取引相場のない株式の評価」)。

いつから適用されるのか

2026年は有識者会議で議論を継続、2027年度税制改正大綱に反映、2028年1月以降の相続から新ルール適用、という流れです。

「3年も先の話」と思われるかもしれませんが、事業承継は計画から実行まで5〜10年かかるのが一般的です。

新ルールが見えてきた今のタイミングで方針を再点検しておくことが、結果として最大の節税につながります。

中小企業オーナーが今やっておくべきこと

1つ目は、現行ルールでの自社株評価額を把握することです。

評価額を知らないまま事業承継を進めると、後継者の納税資金が不足してトラブルになるケースが少なくありません。

まずは現状の評価額を税理士に算出してもらい、自社のスタートラインを把握しておきましょう。

2つ目は、現行ルール下で実行可能な対策を急ぐかどうかを判断することです。

役員退職金の活用、生命保険の組み込み、持株会社化、株式の生前贈与など、現行ルールを前提とした対策は2027年末までが「最後のチャンス」となる可能性があります。

ただし、新ルールの内容がまだ確定していない段階での過度な対策は、かえって不利になるリスクもあります。

3つ目は、新ルール適用後の影響をシミュレーションしておくことです。

有識者会議の議論が進むにつれて、見直しの方向性が徐々に見えてきます。

最新の議論を踏まえて、半年〜1年ごとに自社の影響額を再計算する習慣をつけておくと、慌てずに対応できます。

4つ目は、後継者との情報共有を始めることです。

評価額が大きい会社ほど、後継者の納税資金確保が事業承継の最大の論点になります。

家族会議や経営会議で早めに方針を共有し、必要であれば金融機関や保険会社とも事前に打ち合わせておきましょう。

よくあるご質問

うちは小さな会社ですが、影響がありますか?

会社規模に関わらず、自社株を発行している法人であれば影響を受ける可能性があります。
特に、不動産や内部留保が多い会社、業績が好調な会社では、現行ルールよりも評価額が引き上げられる可能性があります。
小規模であっても、まず一度評価額を試算しておくことをおすすめいたします。

すでに事業承継対策を進めていますが、やり直しが必要ですか?

進行中の対策をすぐに止める必要はありませんが、新ルールの方向性が見えた段階で再点検することをおすすめいたします。
持株会社化や種類株式の活用など、見直しの対象になりそうなスキームについては、2026〜2027年の議論を注視しながら柔軟に方針を調整することが重要です。

2027年末までに駆け込みで贈与した方が有利ですか?

ケースバイケースです。
現行ルールで評価額が低くなる会社では、確かに2027年末までの贈与・承継が有利になる可能性があります。
ただし、贈与税の負担、後継者の経営準備状況、家族関係への影響など、税負担以外の要素も含めて総合的に判断する必要があります。

評価方法の見直しによって、相続税率も上がるのですか?

税率の引き上げは予定されていません。
今回の見直しはあくまで「評価方法」の変更であり、税率や基礎控除の変更ではありません。
ただし、評価額が上がれば結果として納税額も増えるため、実質的には増税と同じ効果になるケースがあります。

顧問税理士がいるのですが、別途相談する必要がありますか?

事業承継・自社株評価は専門性が高い領域で、顧問税理士の対応範囲外となるケースもあります。
セカンドオピニオンとしてのご相談は遠慮なくお寄せください。

まとめ

非上場株式の相続税評価ルール見直しは、60年ぶりとなる大きな制度変更です。

1人ひとりの経営者様にとって影響の大きさは異なりますが、自社株を保有しているすべての中小企業オーナーが「他人事ではない」問題です。

今のうちに現状把握とシミュレーションを進めておくことで、選択肢を最大限残したまま新ルールを迎えることができます。

税理士小林ノブヒロ事務所では、自社株の評価額シミュレーション、事業承継対策、後継者への引き継ぎ計画まで、初回60分のご相談を無料で承っております。

「自社の評価額がいくらか知りたい」「改正前にやっておくべきことを整理したい」というご要望があれば、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は2026年5月19日時点の情報に基づいています。改正内容は今後の検討会・税制改正で確定するため、最新情報は国税庁の公表をご確認ください。

投稿者プロフィール

監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
中小企業の経営者様の「一番身近で頼りになるパートナー」として、税務・会計を軸にしながら「お金に関する様々なお悩み」に幅広く寄り添うサービスを展開。
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