2026年から2027年にかけて、小規模事業者の経営を取り巻く制度環境が大きく動きます。

インボイス制度、社会保険の適用拡大、所得税の課税最低限の引き上げという、3つの大きな変化が短期間に集中するためです。

いずれも経営判断や毎月の手取り・人件費の負担に直接響いてくるテーマで、早めの把握と準備が欠かせません。

本記事では、小規模事業者の経営者様が今すぐ把握しておくべき重要トピックを3つに絞り、それぞれ公的機関の公表資料に基づいて整理いたします。

1 インボイス制度の経過措置が変わる(2026年10月〜)

インボイス制度の小規模事業者向け負担軽減措置が、2026年10月から段階的に縮小されます。

これまで多くの個人事業主・小規模法人が活用してきた「2割特例」と、免税事業者からの仕入に対する「8割控除」が、いずれも見直しの対象です(出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」)。

「2割特例」については、2026年9月末で原則終了となり、その後は個人事業主に限って「3割特例」へと負担を引き上げた形で、令和9年分・令和10年分(2027年・2028年)の確定申告において利用できます。

法人は対象外となるため、これまで2割特例を使ってきた小規模法人は、2026年10月以降は本則課税または簡易課税のいずれかを選択することになります(出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」)。

免税事業者からの仕入に係る経過措置(いわゆる「8割控除」)も段階的に縮小されます。

さらに、1社の免税事業者からの年間仕入額が1億円を超える部分には経過措置が適用されない「年間1億円ルール」も新設されました(改正前は10億円)。

2割特例の翌期からスムーズに簡易課税へ移行できるよう、簡易課税制度選択届出書の事前提出も選択肢に入ります。

インボイス制度の今後と賢い活用法|2026年10月改正で何が変わるか

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2 社会保険の加入対象が広がる(短時間労働者の適用拡大)

人を雇っている小規模事業者にとって、最もインパクトが大きい制度変更がこちらです。

2025年6月に成立した年金制度改正法により、短時間労働者の社会保険加入要件が大幅に見直されます(出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」)。

ポイントは2つあります。

1つ目は、賃金要件(月額賃金8.8万円以上、年収換算で約106万円、いわゆる「106万円の壁」)の撤廃です。

撤廃の施行日は「最低賃金の状況を踏まえ、令和7年6月から3年以内に撤廃」とされており、具体的な日付は今後の政令で定められます(出典:厚生労働省「年収の壁への対応」)。

2つ目は、企業規模要件の段階的縮小です。

現在は「厚生年金保険の被保険者数51人以上の企業」が対象ですが、2027年10月から36人以上、2029年10月から21人以上、2032年10月から11人以上、2035年10月で完全撤廃(出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」)。

これらの改正が実施されると、最終的には週20時間以上働く短時間労働者は、企業規模や賃金水準に関係なく、社会保険に加入することになります。

経営者様にとっては、パート・アルバイトの社会保険料の会社負担分(おおむね給与額の15%前後)が新たに発生する可能性があり、人件費構造に大きな影響を及ぼします。

ただし、企業規模要件の見直しにより新たに加入対象となる短時間労働者のうち、標準報酬月額12.6万円以下の方については、3年間限定で本人の保険料負担を軽減する措置が用意されています(事業主が労使折半を超えて負担し、追加負担分は制度から全額支援される仕組み)。

今のうちにできる対応は、自社のパート・アルバイトの労働時間と契約条件を一度棚卸しすることです。

週20時間以上で働いている方は、施行と同時に加入対象となる可能性が高いため、ご本人とも事前に話し合っておくことが望ましいでしょう。

3 所得税の基礎控除等が引き上げられる(令和8年分以後)

3つ目は、給与所得者にも個人事業主にも影響する所得税の改正です。

令和8年度税制改正により、基礎控除と給与所得控除の最低保障額がいずれも引き上げられ、給与所得者の課税最低限(いわゆる「年収の壁」)が178万円まで引き上げられます(出典:国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」)。

具体的な内訳は次の通りです。

基礎控除は本則58万円から62万円へ引き上げ(合計所得金額2,350万円以下の方が対象)。

令和8年・令和9年分については、合計所得金額655万円以下の方を対象に、基礎控除の特例として最大42万円が上乗せされます。

給与所得控除の最低保障額も65万円から69万円に引き上げられ、令和8年・令和9年分はさらに5万円の特例上乗せが行われます。

これらを合算すると、合計所得金額489万円以下の給与所得者の課税最低限は「基礎控除62万円+基礎控除特例42万円+給与所得控除69万円+給与所得控除特例5万円=178万円」となります(出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱(1/9)」)。

これらの改正は令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます。

このため、令和8年12月に行う年末調整から対応することになり、令和8年11月までの源泉徴収事務に変更は生じません(出典:国税庁公式ページ)。

なお、配偶者控除や扶養控除の対象となる方の合計所得金額要件も、現行の58万円以下から62万円以下に引き上げられます。

扶養範囲内で家族に給与を支払っている事業者様にとっては、家族従業員の働き方を見直す機会となります。

ここまでを下記の表にまとめましたが、細かい内容までの把握は難しいので、最寄りの税務署もしくは顧問税理士に確認するのが確実です。

ここまで見てきた3つのトピックは、それぞれ独立した制度ですが、消費税の納税負担の見直し、人件費の負担増への備え(社会保険適用拡大の影響試算)、自分自身および家族の所得設計の見直しのご検討をされると良いと思います。

こちらに関して、下記よりクライアントからいただいたご質問の回答を簡単にご紹介いたします。

よくあるご質問

個人事業主ですが、3つすべて関係しますか?

はい、3つすべてに関係する可能性があります。
インボイス制度は売上にかかる消費税の納税方式に直結し、所得税の改正はご自身の所得税負担に影響します。
パート・アルバイトを雇用している場合は、社会保険の適用拡大も関わってきます。

2割特例は2026年9月で完全に終わるのですか?

法人については2026年9月末で終了します。
個人事業主に限り、2026年10月以降は「3割特例」として令和9年分・令和10年分(2027年・2028年)の確定申告において継続適用されます。

「106万円の壁」の撤廃は具体的にいつですか?

現時点では確定日は公表されていません。
厚生労働省の公表資料では「最低賃金の状況を踏まえ、令和7年6月から3年以内に撤廃」とされており、具体的な施行日は今後の政令で定められるようです。

社会保険の会社負担分は具体的にどれくらい増えますか?

労使折半が原則で、給与額のおおむね15%前後が会社負担分の目安です。
例えば月給10万円のパートさんが新たに加入対象となった場合、会社の追加負担は月額約1.5万円、年間で約18万円程度になります。
パート・アルバイト比率の高い飲食・小売・介護業では、特に影響が大きくなりますので注意が必要です。

課税最低限178万円は2026年からすぐ適用されますか?

所得税の改正は令和8年12月1日施行で、令和8年分以後の所得税から適用されます。
ただし、月次の源泉徴収事務は2026年11月までは現行のまま変更がなく、2026年12月の年末調整から新ルールが反映される仕組みです。

改正後の制度に対応するため、税理士に何を相談すればよいですか?

当事務所ではこれらはオールインワンでサポートいたします。
消費税の申告方式の有利不利シミュレーション、社会保険適用拡大による人件費影響の試算、基礎控除引き上げを踏まえた所得設計の見直し、これら3つを別々に検討するより、まとめて整理する方が結論が出やすくなります。

これらの改正に1つずつ対応していくと後手に回りやすいため、早めに全体像を把握し、優先順位を立てて取り組むことが重要です。

なお、本記事は2026年5月19日時点の公式情報に基づいています。各改正の最終的な内容や施行日は今後の政令・通達等で確定するため、最新情報は財務省・国税庁・厚生労働省の公表をご確認ください。

投稿者プロフィール

監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
監修者 小林暢浩(税理士小林ノブヒロ事務所 代表税理士)
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