夏季賞与の支給時期がやってきました。
小規模事業者の経理担当者にとって、賞与は1年で最も仕訳ミスが起こりやすい場面のひとつです。
通常の給与とは異なる社会保険料の計算方法、源泉所得税の特殊な算出ロジック、賞与引当金の取り崩し、押さえるべき論点が複数同時に発生します。
本記事では、夏季賞与の支給に伴う仕訳を一連の流れで整理いたします。
6月から7月にかけての賞与処理の参考としてご活用ください。

賞与の仕訳の全体像
賞与の支給に伴う仕訳は、大きく分けて4つの構成要素から成り立ちます。
- 1つ目は、賞与本体の費用計上です。
- 2つ目は、源泉所得税の預り金処理です。
- 3つ目は、社会保険料(健康保険・厚生年金・雇用保険)の従業員負担分の控除です。
- 4つ目は、会社負担分の社会保険料の費用計上です。
この4つを一連の流れで処理することで、漏れのない仕訳が完成します。

事例1 「年末調整で発覚した仕訳ミス」のケース
以前、従業員数名の建設業のお客様で、7月の夏季賞与の支給時、経理担当者様が会社負担分の社会保険料の計上を失念されていたことがありました。
賞与本体と従業員負担分の預り金処理は正しく行われていましたが、納付時の法定福利費(会社負担分)の計上が抜けており、月次試算表上は利益が実態より50万円ほど多く見える状態が続き、社長も「今年は調子がいい」とおっしゃっていました。
ところが11月の年末調整準備の段階で、社会保険料の納付額と帳簿の差異が判明し、第3四半期の利益見込みを下方修正することになり、社長様の資金繰りの判断にも影響が出たという事例があります。
賞与支給時の基本仕訳
仮に総支給額50万円、源泉所得税3万円、社会保険料従業員負担分7.5万円、会社負担分7.5万円のケースで考えてみます。
賞与支給時の仕訳は次のようになります。
借方:賞与 500,000円
貸方:預り金(源泉所得税) 30,000円/預り金(社会保険料) 75,000円/普通預金 395,000円

会社負担分の社会保険料は、賞与支給時ではなく、社会保険料の納付時に費用計上するのが一般的です。
納付時の仕訳は次のようになります。
借方:法定福利費 150,000円(従業員負担75,000円+会社負担75,000円)
貸方:預り金(社会保険料)75,000円/普通預金 75,000円
賞与の源泉所得税の計算
賞与から控除する源泉所得税は、毎月の給与とは異なる計算方法で算出します。
「前月の給与額」と「扶養親族等の数」をもとに、賞与に対する源泉徴収税額の算出率を求めて計算する仕組みです。
(参考:国税庁「源泉徴収のための賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和8年)」)
ここでよくある間違いが、月給と同じ計算ロジックを使ってしまうケースです。税額表が異なるため、必ず賞与専用の算出率表を参照する必要があります。
賞与引当金がある場合の処理
決算で賞与引当金を計上している場合、支給時に引当金を取り崩す処理が必要です。
決算時に賞与引当金を計上していた場合の支給時仕訳は、次のようになります。
借方:賞与引当金 ××円/賞与 ××円(不足分)
貸方:預り金(源泉所得税)××円/預り金(社会保険料)××円/普通預金 ××円
引当金の取り崩しを忘れると、二重で費用計上することになり、利益が過少表示されてしまいます。
決算前に引当金計上を行っている法人では、支給時の仕訳に細心の注意が必要です。
役員賞与の特殊な扱い
役員に対する賞与は、原則として損金算入されません。
損金算入するためには「事前確定届出給与」として、所定の届出書を期限内に税務署へ提出しておく必要があります。
届出書の提出期限は、株主総会等での決議日から1か月を経過する日、または事業年度開始から4か月を経過する日のいずれか早い日です。
3月決算法人の場合、6月末までに提出が必要となります。
(参考:国税庁タックスアンサーNo.5211「役員給与の損金不算入」)
届出と異なる金額や時期で支給した場合、支給額全額が損金不算入となるため、要注意です。
事例2 「賞与資金が足りなくなった」ケース
美容室を経営されているお客様で、「夏のボーナスとして従業員6名に総額300万円を支給する予定で資金は確保している。仕訳の確認をお願いしたい」というお話でした。
しかし試算してみると、会社負担の社会保険料がおよそ46万円で、さらに翌月の納付資金まで考えると、賞与本体300万円のほかに50万円近い手元資金が必要だったのです。
経営者様は「賞与額=必要資金」と思い込んでおられ、社会保険料の会社負担分は計算をしておらず、結果として、その月は仕入れ業者様への支払いの一部を翌月にずらしていただき、何とか乗り切りました。
このご経験のあと、毎年3月頃から「賞与本体×1.15」の金額を別口座にプールする運用に切り替えていただき、対応をお願いしております。

賞与資金の準備で見落としやすいポイント
実務上、最も多い失敗が先の事例2の「賞与本体の金額しか準備していなかった」というケースです。
賞与には、本体に加えて会社負担の社会保険料(おおむね賞与額の15%前後)が発生します。
賞与総額300万円を支給する場合、会社負担の社会保険料は約45万円、合計345万円を準備しておく必要があります。
3〜4か月前から計画的に資金を確保しておくことが、賞与シーズンを乗り切るコツです。
まとめ
賞与の仕訳は、関連する処理が多く、ひとつでも漏れるとあとから修正が大変な領域です。
本記事の流れを参考に、社内で「賞与処理チェックリスト」を作っておくと、毎年スムーズに対応できます。
税理士小林ノブヒロ事務所では、賞与の仕訳サポートや事前確定届出給与の届出代行も承っております。
「仕訳が合っているか不安」「届出のタイミングを確認したい」というご要望があれば、お気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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中小企業の経営者様の「一番身近で頼りになるパートナー」として、税務・会計を軸にしながら「お金に関する様々なお悩み」に幅広く寄り添うサービスを展開。
特に、経営者様が安心して本業に専念できる環境づくりと信頼関係の構築には定評がある。千代田区、文京区、神田地区を中心に地域に密着したサポートを提供している。
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