経理担当者が気をつけておかなければならない仕訳はいくつかありますが、今回はその中でも、決算月をまたぐ取引の処理について考えたいと思います。
期ズレの仕訳は、意図せず結果的に損益の調整を行ったと見られる場合もあるため、税務調査で指摘されやすい代表的な論点です。
- 「請求書は翌期だが、サービスは当期に受けている」
- 「年払いした保険料を全額当期費用にしていいのか」
- 「年会費の処理はどうするか」
上記は一例ですが、このような「期ズレ」の処理は、決算の数字を左右します。
本記事では、年度をまたぐ取引の仕訳ルール(経過勘定)と、実務で迷いやすいケースを整理してお伝えしてまいります。

経過勘定とは
経過勘定とは、収益や費用を「発生時期」で正しく当期と翌期に振り分けるための勘定科目です。
年払い・サブスク・年会費など年度をまたぐ契約が多い企業ほど、この処理が大量に発生し、経理担当者様の業務負担も増していきます。
基本は発生主義の会計原則に基づき、現金の入出金とは関係なく、サービスの提供期間や費用の対応期間で計上します。
経過勘定には次の4種類があります。
- 前払費用:当期にお金を払ったが、来期分のサービス
- 前受収益:当期にお金を受け取ったが、来期分のサービス
- 未払費用:当期分のサービスを受けたが、まだ払っていない
- 未収収益:当期分のサービスを提供したが、まだ受け取っていない
これらを正しく使い分けることで、当期の損益が正確に計算されます。

前払費用の仕訳
家賃の前払いを例にします。
3月決算法人が、3月10日に4月分の家賃20万円を支払った場合は下記の仕訳となります。
支払時(3月10日)
借方:前払費用 200,000円
貸方:普通預金 200,000円
翌期計上時(4月1日)
借方:地代家賃 200,000円
貸方:前払費用 200,000円
このように、支払時点ではいったん「前払費用」(資産)として計上し、サービスを受けた翌期に費用化するのが原則です。
短期前払費用の特例
ただし、前払費用について、次のすべての条件を満たす場合は、支払時点で全額を当期の損金として処理できる特例があります。
- 契約に基づいて継続的にサービスを受けるための支払いであること
- 支払日から1年以内にサービスを受けるものであること
- 毎期継続して同じ処理を行うこと
- 収益と対応させるべき費用ではないこと
(参考:国税庁タックスアンサーNo.5380「短期前払費用として損金算入ができる場合」)
たとえば、家賃を年払いに切り替えて、毎期同じ時期に1年分を支払う場合、その年の損金として全額計上できます。
この特例は、節税策としても活用されることが多い実務上の重要論点です。
ただし、初年度に変更したばかりの場合や、収益との対応関係が明確な費用(売上原価など)は対象外となります。

当事務所の事例 美容室経営B様
当事務所でも、過去に家賃に関してこの特例を対応させて頂いた事例があります。
都内で美容室を経営されているB様は、毎月の家賃合計を30万円程度月払い処理されていました。
毎年の資金繰り的にも、一括払いで問題ないとのB様からの確認の上で、当事務所からも家主様との交渉のサポートを行いまして、年払い契約への切替を行う形となりました。
切替後は年額360万円を支払時点で全額損金算入(経費処理)できる短期前払費用の特例を継続適用し、毎期安定した節税効果を実現されています。
契約変更時には「毎期継続適用すること」「収益との対応関係がないこと」を慎重に確認することで、税務リスクを抑えた節税が可能となります。
未払費用の仕訳
次は未払費用の仕訳です。決算月にサービスを受けたが、請求書が翌月に届くケースの事例で見てみましょう。
たとえば、3月決算法人で、3月分の電気代5万円が4月10日に請求された場合は下記の仕訳となります。
決算時(3月31日)
借方:水道光熱費 50,000円
貸方:未払費用 50,000円
翌期支払時(4月10日)
借方:未払費用 50,000円
貸方:普通預金 50,000円
請求書が手元になくても、3月分のサービスを受けているため、3月の費用として計上する必要があります。
前受収益・未収収益の仕訳
前受収益は、収益側の前払費用です。お客様から先にお金を受け取ったが、サービスはまだ提供していない場合に使用します。
未収収益は、収益側の未払費用です。サービスは提供したが、まだお金を受け取っていない場合に使用します。
たとえば、年会費を1年分前受けで受け取った場合は下記の仕訳となります。
受取時
借方:普通預金 120,000円
貸方:前受収益 120,000円
決算時に当期分(仮に8か月分)を収益化
借方:前受収益 80,000円
貸方:年会費収入 80,000円
サブスクリプション・SaaSの処理
近年増えているサブスクリプション型のサービスも、経過勘定の考え方で処理します。
たとえば、会計ソフトのライセンス料を年額12万円で年初に支払った場合は下記の仕訳となります。
支払時
借方:前払費用 120,000円(または通信費等)
貸方:普通預金 120,000円
決算時に当期分を費用化、または短期前払費用の特例を使って全額を当期費用にする選択肢もあります。
当事務所の事例 IT企業C社様
クラウドサービスを開発されているC社様では、会計ソフト・勤怠管理・CRMに加え、ビジネスチャットツールやプロジェクト管理ツールなど、合計年額約80万円のSaaSライセンスを利用されていました。
これらの処理について「全額その期で損金にすることは可能でしょうか?」とご相談をいただきました。
契約形態(契約期間・支払サイト・解約条件)を一つひとつ確認のうえ、4つの適用要件(継続的役務提供・1年以内・毎期継続適用・収益との非対応)に照らして、各SaaSにつき特例適用の可否を判断いたしました。
自社サービスのインフラとして利用しているクラウドサービスについては、収益との対応関係から対象外と判定した契約もありましたが、結果として、要件を満たすSaaSについては特例を適用し、サブスク契約部分について、損金前倒しの会計処理を整備できました。
期ズレを防ぐためのチェックポイント
決算前に次の点を確認することで、期ズレを大幅に減らせます。

- 決算月にサービスを受けた取引で、請求書が翌月になるものはないか
- 年払い・半期払いの契約で、当期に対応しない部分が含まれていないか
- お客様から前受けで受け取った入金が、すべて当期の売上になっていないか
- サービス提供済みで未請求・未入金のものがないか
当事務所の事例 運送業A社様
ご相談を受けた際こちらの運送業のお客様は、3月決算法人にもかかわらず、決算月に協力会社へ委託していた配送業務の外注費(庸車費)約450万円について「請求書が4月に到着する」ことを理由に翌期処理されていました。
税務調査の際、調査官から「役務提供は当期完了のため未払計上が必要」と指摘を受け、修正申告と追徴課税が発生してしまったとのことです。
当事務所が引き継ぎ後は、月次決算で経過勘定の振替を仕組み化し、特に金額が大きくなりがちな決算月の庸車費・外注費の期ズレ処理に関しては、経理担当の方に別途エクセルに一覧として洗い出してもらうようにし、精度を上げております。
まとめ
経過勘定の処理は、毎月の仕訳でこまめに対応するよりも、決算時にまとめて確認するのが現実的です。
ただし、決算直前になって慌てて整理するのではなく、毎月の月次決算で意識しておくことが、決算精度を高めるポイントです。
税理士小林ノブヒロ事務所では、決算精度を高めるための経過勘定処理の整備や、短期前払費用の特例の活用についてのご相談も承っております。様々なお客様の事例を持っておりますので、その中から貴社に合わせた、最適な管理方法の指導も行っております。
この記事にあるように、「金額が大きいため期ズレが心配」「節税のために短期前払費用を活用したい」という経営者様は、ぜひお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

-
中小企業の経営者様の「一番身近で頼りになるパートナー」として、税務・会計を軸にしながら「お金に関する様々なお悩み」に幅広く寄り添うサービスを展開。
特に、経営者様が安心して本業に専念できる環境づくりと信頼関係の構築には定評がある。千代田区、文京区、神田地区を中心に地域に密着したサポートを提供している。
最新の投稿
コラム2026年8月7日8月ごろ届く見慣れない納税通知書は「個人事業税」かもしれません
コラム2026年7月29日令和8年分の年末調整は大型改正|9月から始める準備と新様式への対応
コラム2026年7月29日メール添付のPDF請求書、印刷して保管していませんか|電子帳簿保存法「電子取引データ保存」の実務対応
コラム2026年7月17日インボイス2割特例は令和8年で終了|終了後の選択肢と簡易課税届出のタイムリミット
お問い合わせ
| CONTACT
弊社サービスをご検討いただきありがとうございます。
起業や税金節約、税理士に対するご希望など、ざっくばらんに何でもご相談いただけます、お気軽に世間話感覚でOKです!(*^^*)
お問い合わせ・資料請求、無料相談のご予約は、下記のフォーム・LINEまたはお電話でお気軽にご連絡下さい。
初回ご相談60分無料です!
◯平日であれば、通常は翌日までに返信させていただきます。
◯お問い合わせいただいた後、平日にもかかわらず返信がない場合は、迷惑フォルダやメールアドレスの入力ミスがないかをご確認くださいませ。


