※本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。制度の詳細や取り扱いは変更される場合がありますので、実際のご判断の際は国税庁の最新の公表内容をご確認ください。
「取引先からメールで届いたPDFの請求書は、これまでどおり印刷してファイルに綴じておけば大丈夫でしょうか」
顧問先の経営者様から、こうしたご質問をいただくことが増えました。
結論から申し上げると、いまはその保存方法だけでは足りない場面が出てきています。
2024年1月から、電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」が完全義務化されました。
むずかしそうな名前ですが、要点はシンプルです。本記事では、専門用語をできるだけかみくだきながら、何が変わったのか、そして何から手をつければよいのかを一緒に整理していきます。

そもそも「電子取引」とは何を指すのでしょうか
「電子取引」と聞くと難しく感じますが、日々の業務の中ですでに行っているものがほとんどです。経理関係部署だけでなく他にも多くの部署で日常的にシステムとして使っていますので、改めてご認識いただくほどのことではないかもしれません。
具体的には、メールに添付されて届いた請求書や領収書のPDF、通販サイトやクラウドサービスの画面からダウンロードする領収書、EDI(※1)と呼ばれる仕組みでやり取りする取引データなどが当てはまります。
つまり、紙ではなく最初からデータの形で受け取った(あるいは送った)取引の書類は、すべて電子取引にあたる、とお考えください。ほとんどの事業者様が、知らないうちに毎日行っているはずです。
(※1:EDIの仕組みのイメージをChatGPTに画像化してもらったのが下記です)

(出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」 )
なぜ「電子データのまま」保存する必要があるのでしょうか
以前は、電子取引で受け取ったデータも、紙に印刷して保存しておけば、それで認められていました。
しかし、2024年1月からは、電子で受け取った取引データは電子データのまま保存することが原則となりました。ほぼすべての法人と個人事業主が対象です。
「印刷したものがあるのに、なぜデータも残すのか」と感じられるかもしれません。理由は、データのほうが日付や金額の改ざんの有無を確認しやすく、税務上の信頼性を確保しやすいためです。
紙に出したものだけでは、元のデータが後から書き換えられていないかを確かめることが難しく、データそのものを一定のルールで残しておく仕組みへと切り替わったのです。
(出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」 )

【小林コメント】

ある建設業のお客様は、メールで届く請求書を毎回印刷し、紙のファイルに綴じて管理されていました。整理としては申し分ないのですが、元のPDFデータは受信トレイに残したまま、という状態でした。
電子データでの保存が義務されることをお伝えしたところ、「今までのやり方を全面的に変更しないといけないのでしょうか」と少し戸惑われました。
もちろん紙での整理はそのまま続けていただいてOKです。ただ、これに加えて、元のデータを決まった場所に残す運用をしなければならず、この部分で若干負担増になります。完全にゼロから業務フローをやり変える必要はないのですが、ひと手間かかってしまうことになると知っておかれると良いと思います。
まず押さえるべきは2つの要件です
帳簿保存のルールと聞くと身構えてしまいますが、大きくは2つの考え方に整理できます。
1.データが後から書き換えられていないと示せるようにしておくこと(いわゆる真実性の確保)です。もう一つは、必要なときにそのデータをすぐ取り出して画面や紙で見られるようにしておくこと(いわゆる可視性の確保)です。
1については、専用のシステムを使う方法もありますが、費用をかけずに対応する方法もあります。それが、データの訂正や削除について社内のルールを文書で定めておく「事務処理規程」を備える方法です。
「事務処理規程」は国税庁がひな型を公開していますので、自社に合わせて整えれば、新たなシステム投資をせずに要件を満たせます。
下記の画像をクリックしていただければ、雛形ダウンロードページに飛べます。

電子帳簿等保存制度については、国税庁のこちらのサイトに詳しい解説が載っています。
導入したいけれどもよく分からない場合は、当事務所でご相談対応を行っておりますので、こちらからお問い合わせください。

2.「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つで検索できる状態にしておくことが求められます。ただし、会社規模によっては、この検索の準備が不要になる場合もあります。
(出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」 )
中小企業がまず取り組みたい、現実的な第一歩
「システムを入れないと対応できないのでは」と心配される方が多いのですが、多くの中小企業や個人事業主の場合、下記のいずれかの対応で大丈夫です。
- 先ほどの事務処理規程を用意すること。
- 保存するデータのファイル名を「日付・取引先・金額」の順で付けておくこと
たとえば2026年1月15日に○○商店から5万円の請求書を受け取ったなら、「20260115_○○商店_50000」のように名前を付けて、決まったフォルダに保存します。これだけで、後から探しやすくなり、検索のかわりにもなります。
さらに、検索の準備そのものが不要になる場合もあります。
基準期間(おおむね二年前)の売上高が5,000万円以下の事業者や、データを印刷した書面を日付・取引先ごとに整理して提示できるようにしている事業者は、日付・金額・取引先による検索機能を用意しなくてよいとされています。小規模な事業者ほど、負担は軽くなる仕組みです。
【小林コメント】

従業員が数名の小売店の事業者様は、専用ソフトを買わなくてもOKです。
いつも使っているクラウドの保存先に年月別のフォルダを作り、ファイル名を「日付・取引先・金額」で統一して保存していってください。
事業者様によっては数が多く、処理が大変になる方もいらっしゃると思いますが、一定のルールに沿って、生成AIを活用してファイル名の変換処理をしていただけると良いのではないかと考えております。
「猶予措置があるから大丈夫」と安心しすぎないために
現在は、恒久的な猶予措置も設けられています。
要件どおりに保存できないことに「相当の理由」があると所轄の税務署長が認め、かつ税務調査の際にデータのダウンロードの求めや書面の提示に応じられる場合には、要件を満たしていなくても、データを単純に保存しておくだけでよいとされています。事前の申請は必要ありません。
ただ、これはあくまで、対応が間に合わない事業者への当面の配慮という位置づけのようで、この措置を使う場合でも、電子データそのものを残しておくことは必要とのことです。
※「印刷したから元のデータは消してよい」というわけではない点に、ご注意ください。
なお、対応が不十分だからといって、ただちに青色申告の承認が取り消されるわけではないことも、国税庁が明らかにしています。過度に不安をあおる情報も見かけますが、サイトなどで確認しご自身に合った正しい情報を収集するようにしてください。
もしご自身がどう対応するのかがわからない場合は、当事務所までお問い合わせいただけましたら、まずは当面の対応方法を簡単にお伝えさせていただきます。
(出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください」 / 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」内 一問一答 )

【小林コメント】

「うちはまだ何もできていない」と、深刻な面持ちでご相談に来られた個人事業主の方がいらっしゃいました。
お話を伺うと、受け取ったPDFはメールにもクラウドにも残っており、実はデータ自体は保管できていました。足りなかったのは事務処理規程とファイル名のルールだけでした。
完璧を目指さなくても大丈夫です。現在の業務の状態を活かしながら、データの整理(フォルダ作成とファイル名のネーミング規則の統一)を進めることで問題ありませんとお伝えしました。
よくあるご質問
Q. 紙で受け取った請求書や領収書も、データにして保存しないといけませんか。
A. いいえ。今回義務化されたのは、あくまで電子で受け取った(送った)取引データの保存です。
紙で受け取ったものは、これまでどおり紙で保存して問題ありません。
Q. メールで届いたPDFを印刷して保存すれば、データは削除してよいですか。
A. 原則として、電子で受け取ったデータは電子のまま保存する必要があります。
印刷した紙があっても、元のデータは残しておいてください。
Q. 会計ソフトを新しく導入しないと対応できませんか。
A. 必ずしも必要ありません。事務処理規程の整備と、ファイル名を「日付・取引先・金額」でそろえる運用だけでも、要件を満たせる場合が多くあります。
まずはお金をかけない方法から検討することでOKです。

まとめ
電子帳簿保存法の電子取引データ保存は、名前こそ難しく感じますが、やるべきことを整理すればシンプルです。
電子で受け取った請求書や領収書はデータのまま残す、真実性と可視性という二つの要件を意識する、そして中小規模なら事務処理規程とファイル名ルールから始める。この順番で十分に前へ進めます。
税理士小林ノブヒロ事務所では、自社にとって何が必要で何が省けるのかの見極めから、事務処理規程の整備、日々の保存運用の定着まで、経営者様の状況に合わせてお手伝いさせていただいております。「うちの場合はどこまでやればよいのか」と迷われたら、ぜひお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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中小企業の経営者様の「一番身近で頼りになるパートナー」として、税務・会計を軸にしながら「お金に関する様々なお悩み」に幅広く寄り添うサービスを展開。
特に、経営者様が安心して本業に専念できる環境づくりと信頼関係の構築には定評がある。千代田区、文京区、神田地区を中心に地域に密着したサポートを提供している。
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